経営資源として活用されるビジネスアーカイブズ
アーカイブズは文書館、資料館など呼ばれている施設です。文書館、資料館で収蔵している資料そのものについても「アーカイブズ」と呼ぶ場合がありますので、多少紛らわしいかもしれません。
前者の意味合いでアーカイブズを分野別に分けると、国の機関のアーカイブズ、自治体のアーカイブズ、そしてもう一つが民間企業のアーカイブズ、すなわち「ビジネス・アーカイブズ」になります。本記事では、ビジネス・アーカイブズについて解説します。
ビジネス・アーカイブズの目的
概要
ビジネス・アーカイブズに関しては、国・自治体のアーカイブズのような法的規制は全くありません。従って、アーカイブズを設置するかどうかは全くその企業の自由です。その結果、我が国では上場企業のような大企業でさえ、アーカイブズを有しているところはそれほど多くはないのが現状です。また、そのアーカイブズの態様も様々です。
日本の企業の多くは、基本的に記録管理に対する意識が希薄で、記録管理のルールやアーカイブズの役割が明確になっていません。一方、海外の企業の多くは、ビジネス・アーカイブズは企業経営に役立つものでなければならないとの認識を持っています。ビジネス・アーカイブズは、組織のアイデンティティを確立し、企業文化の源泉となるものです。過去の業績や知識資源、知的資源を保存するとともに、それらを生み出す基盤や伝統、企業文化を伝え、共有化することが、ビジネス・アーカイブズの大きな役割といえます。
ビジネス・アーカイブズの役割
以前、日本の企業が自社の組織活動を記録するビジネスアーカイブズは、文書・記録中心の文書館・資料館としてよりも、製品などモノ資料中心の博物館的な施設が多い傾向がありました。自社の宣伝やPRなど実利に直結する施設が求められていたためです。しかし近年、ビジネス・アーカイブズを経営資源と位置づけ、CSR活動や良質な企業PRの素材として戦略的な活用を図る動きが見られるようになってきました。
ビジネスアーカイブズの戦略的な役割として以下が考えられます。
意思決定支援
アーカイブズを保有していることで、組織の先人の成功や失敗の経験を活かして、現在と将来の経営戦略を策定することが可能となります。
製品開発支援
新たな製品開発では、アーカイブズ部門から過去に開発した製品などの情報を提供してもらい活用することができます。
広報・マーケティング
対外的には、アーカイブズに残されている製品や資料を展示して一般に公開することで広報の場として活用できます。単純に製品そのものの良さを訴えるのではなく、その製品の歴史や、その製品を生み出した企業の歴史・文化を知ってもらうことで、企業ブランドの価値を高めることもできます。
社会的責任
企業は社会の一員として環境問題への配慮、地域社会への貢献など、責任を果たす必要があります。例えば、国内外での環境改善、保全活動の調査に、先人が残してくれた公害問題や自然環境に関するアーカイブズ史料を活用することができます。
企業文化の共有・継承
先人が成し遂げた業績や知識資産・知的資源を確実に保存すると同時に、企業活動を安定的に継続するために、企業文化や経営理念を共有・継承することが重要です。
エビデンスとしてのアーカイブズ利用
訴訟を起こされた場合などには、証拠となる文書・記録をアーカイブズから提出する場合もあります。例えば、海外の事例になりますが、競合品の開発時期に関する他社との訴訟で、重要証拠となる写真を提供したビジネス・アーカイブズがあります。
産業史博物館としてのアーカイブズ
これまで組織内のビジネス・アーカイブズについて見てきましたが、ここでは、収集型のビジネス・アーカイブズについて解説します。
ある印刷会社では、自社の製品と事業の直接的なPRから離れて、印刷にまつわる古今東西の資料や機材などを幅広く収集し、これらを体系的に展示することで、印刷の歴史と印刷産業の歴史を見せる博物館として公開しています。また、ある建築会社は、鋸(のこぎり)、鉋(かんな)、錐(きり)といった日本の伝統的な大工道具を幅広く収集し、大工道具博物館として公開しています。
その他、ある企業情報の調査会社は、保有する様々な企業の歴史資料を分析した結果を取りまとめて公開する常設のアーカイブズ史料館を運営しています。このように、一つの産業の歴史がひも解ける博物館的アーカイブズは多数存在しますが、これらは、学生はもちろん、社会人にとっても有益な教育施設であり、立派な社会貢献となっています。まさにビジネス・アーカイブズならではの成果と言うことができるでしょう。
海外のビジネス・アーカイブズ
世界最大といわれるデンマークの海運会社では、CSRを始めとした様々な広報活動にアーカイブズを活用しています。例えば、海運業界では、いかにしてエネルギーの消費量と環境への負荷を減らすかが大きな課題となっていましたが、同社は、このテーマについて調査するために、アーカイブズ資料の中にある昔の船舶レポートや操船指示書を利用したとのことです。
また、世界的に有名なアメリカの食品メーカーは、ワールドワイドなオペレーションを行うためにM&Aを盛んに行っていますが、合併会社の特性を生かしながらグループとしての統一性を確保する方策として、アーカイブズを活用しています。合併会社にアーカイブズがない場合、本社がアーカイブズ構築を支援するなどして、相手先の歴史を徹底的に調べ、組織的な融合を図るのに役立てているのです。海外では、日本に比べより、幅広くアーカイブズを活用している様子が伺えます。
ビジネス・アーカイブズの成果としての社史
創業何十周年という節目ごとに社史を発行する企業は多く、日本はまれに見る社史大国だともいわれています。社史はアーカイブズそのものではありませんが、アーカイブズという原史料があって初めて可能となる成果物であり、良いアーカイブズなくして良い社史はあり得ないと言っていいでしょう。
資生堂名誉会長の福原義春氏は、「社史は経営者にとってバイブルでもあり、また過去から積み上げてきた我が社の知恵の宝庫である。さらに、未来を示す預言書でもある」と語り、「社内的には組織の連帯感を強固にしながら、社内外に会社の原点や理念、あるいはミッションといったものを表明し、共有するもの」であるとしています。そして、「バイブルたりえる社史」を作るためには、「不断の原史料の蓄積とその管理」が重要なことを指摘しています1)。
「不断の原史料の蓄積とその管理」とは、社史の発行が決まってから大騒ぎをして資料を集めるのではなく、日頃からそのために必要な歴史的記録や資料が集まる仕組みを作っておくことを意味します。また、社史を発行した後に、せっかく集めた記録・資料が散逸してしまい、何十年か後に新たな社史を作る際に、また最初から同じような作業をする無駄を省くことも含まれます。
いうまでもなく社史を発刊し終わったからといって、その際に使用した原史料が不要になるわけではないのです。オリジナルの原史料の価値は代替不能なものであり、別の人が見れば、また違った意味を引き出せるかも知れませんし、社史以外にも利用範囲が広いわけです。従って、社史発行のために集めた原史料は、目録を作成したり媒体別の保存措置を講じたりした上で恒久的なアーカイブズを構築し、社内外で活用できるようにすることが望まれます。
- 1)(株)資生堂名誉会長 福原義春「経営者のバイブルとしての企業史料と社史」(企業史料協議会創立30周年記念講演 2011.5.23)
まとめ
本記事ではビジネスアーカイブに関して基本的なこと解説しましたが、参考になりましたでしょうか。本記事も含め文書管理全般、あるいは詳細についてお知りになりたい場合は、文書管理に関する様々なテーマや課題についてコンサルティングからシステム開発・運用に至るまで一貫したサービスご提供し、450社以上の実績がある日本レコードマネジメントへお気軽にお問い合わせくださいませ。