公文書管理法について
「公文書管理法」は国の行政機関及び独立行政法人における公文書管理の基本ルールを、包括的・統一的に定めた法律です。
公文書を適切に管理し、その内容を後生に伝えることは国の重要な責務です。
本記事では、公文書管理法制定の意義について解説します。
包括的・統一的な文書管理の基本法
包括的な基本法の意味
我が国では、2009年の公文書管理法制定までは国の行政機関全体をカバーする文書管理の基本法というものは存在しませんでした。行政機関における事務処理は文書主義が基本原則であるべきことを考えると、これは不思議なことです。既に2001年には情報公開法が施行され、行政機関は、保有する行政文書を原則公開することにより説明責任を果たすことが義務付けられました。
そして、その中に初めて法律の条文として文書管理の基本的事項に関する規定が設けられ、情報公開法と文書管理は車の両輪であるという考え方に基づき、「行政機関の長は、この法律の適正かつ円滑な運用のため、行政文書を適正に管理するものとする」(情報公開法第22条1項)とされていました。
しかし、これはあくまでも情報公開制度の運営を支援する観点から文書管理に関する規定を設けたに過ぎず、国の行政事務全体をカバーする包括的な文書管理ルールではありませんでした。しかも、文書管理の具体的なやり方、手順については全て政令任せで(同条2項、3項)、法律の規定にはなっておらず、その点からも不十分なものでした。
そのため、公文書管理法により、初めて国の行政事務全体をカバーする包括的な文書管理の基本法が制定され、その意義は極めて大きいといえます。
それまでの日本では、情報公開のインフラとなるべき基本的な文書管理の法律を制定することなく情報公開法を施行したために、いくつかの問題が生じていました。
例えば、情報公開請求をしても文書がないという、いわゆる「文書不存在」のケースが毎年、少なからず発生していたのです。これを海外の例と比較すると、例えば米国の場合、情報自由法(Freedom of Information Act)は1966年の制定ですが、それより前の1950年に連邦記録法(Federal Records Act)が制定されています。
またイギリスでは、情報自由法(Freedom of Information Act)の制定は2000年とやや遅れましたが、公記録法(Public Records Act)が制定されたのはそれより遥か前の1958年です。
このように先進国では情報公開法よりも先に文書管理の基本法が制定されているのが通常であり、その点、日本は大きく遅れていたことになります。
今回、公文書管理法が制定されたことで、ようやく海外の先進国並みに情報公開法制のインフラともいうべき公文書管理の基本法制が整備され、情報公開法と公文書管理法が対で揃うことになりました。
このように公文書管理法が文書管理の一般法となり、情報公開法は特別法という位置づけになったため、情報公開法の中で行政機関の文書管理義務を規定していた同法の第22条は削除されました。
「包括的」のもう一つの意味:アーカイブズとの一元化
「包括的」には、もう一つ重要な意味があります。この法律により初めて、作成部門の業務において使用中の現用文書と作成部門の業務における使用が終わり、歴史的な記録として公文書館等のアーカイブズ部門へ移管される非現用文書(特定歴史公文書等)が一元的に管理されることになり、歴史的に重要な資料を正しく保存し、公文書館制度を拡充するための道筋が整った点です。情報公開法が対象とするのはあくまでも現用文書に限られ、非現用のアーカイブズは対象ではないことから、これまで現用から非現用という文書管理の全体的なライフサイクルを一元的に管理するという考え方はほとんどありませんでした。
そのためこれまでは、各府省から国立公文書館への歴史公文書等の移管がスムーズに行われないという問題がありました。これは文書管理の統括官庁が、現用は総務省、非現用は内閣府(実際は国立公文書館)と別々になっていたことにも関連があり、縦割り行政の弊害の一つと考えることもできます。
そのため、新しい公文書管理法で、内閣府が現用・非現用を通じた全体的な公文書管理の司令塔機能を持ち、一元管理するようになったのは大きな進歩です。同時に歴史公文書等の各府省から国立公文書館への移管義務が明確にされたことにより、アーカイブズ拡充のための条件が整ったと言えます。
「歴史とは現在と過去との対話である」とは、イギリスの国際政治学者であるE・H・カーの言葉ですが、そもそも歴史を語る文書・記録が残っていなければ、過去との対話は成り立ちません。その点、この法律には歴史公文書等の移管をスムーズに行なうための対策が種々盛り込まれ、各府省側から見ても利用しやすい形になった点が特長の一つに挙げられます。それらの対策として、例えば中間書庫制度の導入などがあります。
しかし、残念なことに依然として移管が進まず、先進国の3~5%の移管率と比べると平均移管率0.7%とかなりの低さであるのが現実です。
「統一的」の意味
「統一的な公文書管理」とはどのような意味があるのでしょうか。
これまで各行政機関の文書管理規則は、情報公開法の規定に基づき、それぞれの行政機関の長が独自に作成することになっていましたが、必ずしも国として統一のとれたものではありませんでした。公文書管理法においても文書管理規則を行政機関の長が作成する方式は変わらないのですが、今後はその作成にあたって公文書管理法の具体的な規定に基づくとともに、あらかじめ内閣総理大臣の同意を得なければならなくなったのが大きく変わった点です(第10条)。
そのため、必然的に各行政機関の文書管理規則が統一されることになりました。また、行政機関以外の国会及び裁判所の文書管理についても、この法律の趣旨を踏まえて検討されるべきものとしています(附則第13条2項)。
公文書は民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源
公文書管理法には、これまで欠けていた文書管理の理念的な部分が盛り込まれ、その目的規定で公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置付け、「国民が主体的に利用し得るもの」としました。
この文言は国会での修正決議に基づき取り入れられたものですが、もともと先の「有識者会議」最終報告書の基本認識において「民主主義の根幹は、国民が正確な情報に自由にアクセスし、それに基づき正確な判断を行い、主権を行使することにある。国の活動や歴史的事実の正確な記録である『公文書』は、この根幹を支える基本的なインフラであり、過去・歴史から教訓を学ぶとともに、未来に生きる国民に対する説明責任を果たすために必要不可欠な国民の貴重な共有財産である。」とされていました。
そして公文書管理法は「国及び独立行政法人等の有する諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。」と明記しました。
今回、この法律により、初めて文書管理と説明責任の関係が明確にされ、このことの意義は極めて大きいことです。これまで情報公開法において「情報公開法が説明責任を果たすためのもの」とは明記されていても、文書管理が説明責任を果たすためのものとは、どこにも謳われていませんでした。
しかし、これでようやく「情報公開法と文書管理は車の両輪」という概念が実質的に取り込まれたといえます。文書管理の目的が組織の説明責任を果たすためのものであるということは、記録管理の国際標準ISO15489(2001年9月に制定されたRecords Management(記録管理)の国際標準)においても基調となっているコンセプトであり、今やグローバル・スタンダードとなっています。
また目的規定中に「現在及び将来の国民に説明する責務」という表現がありますが、これには大きな意味があります。「現在の国民に対する説明責任」は情報公開を意味していますが、「将来の国民に対する説明責任」とは国立公文書館などのアーカイブズ機関における公開を意味しており、現用段階における行政文書と歴史公文書等を一元的に管理することの重要性を示したものといえます。
まとめ
公文書は自治体職員が政策決定、行政事務の遂行など、職務の中で作成・取得した記録です。
それは自治体の活動や歴史的事実の正確な記録であり、それぞれの時代の行政の在り方とその推移を知るうえで、国民にとって貴重な知的資源であるといえますね。
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